ここ数日の記事に少し関連する話がネグリ=ハートの新刊(といっても『帝国』の草稿)に出ているので、紹介しておく。ただし本書は獄中などで書かれたノートなので、記述が混乱していて繰り返しも多く、非常に読みにくい。一般の読者にはおすすめできない。 おもしろいのは、ネグリも「下部構造が法を決定する」というマルクスの図式を転倒することが重要だとしていることだ。その先駆として彼(というよりハート)が評価するのが、ロシアの法学者、パシュカーニスである。彼はロシア社会民主党の綱領を起草し、レーニン政権の外相になり、ソ連の刑法をつくったが、のちにスターリンによって粛清された。彼の主著の英訳がウェブに出ているので、興味のある法律家が読むと意外におもしろいと思う。 パシュカーニスの発想は、マルクス(というかルカーチ)の物象化論を法=権利(Recht)に適用し、本来は複雑な契約にもとづいて成立する「私的に所有す