1回終了時、コーナーに戻ってきたときの儀式がある。セコンドの大橋秀行会長が井上尚弥に問い掛ける。 「(相手の)パンチはどうだ? 耐えられるか?」 これまでの試合、答えは決まっていた。 「大丈夫です。全然大丈夫ですよ」 11月7日、さいたまスーパーアリーナ。ワールド・ボクシング・スーパーシリーズ(WBSS)決勝。ノニト・ドネア(フィリピン)戦でも同じ返答だった。 大橋会長は安堵の表情とともに頷いた。 「ああ、これは早く倒せる。2回か3回で終わるな」 井上にも感触があった。 「出だしから手応えがいい。イメージ通り。早い決着があるかも」 ふたりの胸の内はそう違っていなかった。 「これ以上もらったら止められる」 2回2分すぎ。強打を誇るドネアの左フックを右目に食らった。右目上をカットし、アマチュア・プロを通じて初の流血。傷はかなり深い。試合後、医師から「(傷が)もう一皮深かったら白い筋肉まで達して
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