最初に、わたしはわたしであってほかの人ではないのだ、ということに気付いたのは、いつのことだっただろうか。 残念ながら、私はその瞬間を明確には覚えていないのだけど、ただ、たしかに幼い頃の自分は、もっと曖昧で、いろんなものと混じりあっていた。 お風呂に入ればゼラチンのように溶け、冷蔵庫から出した麦茶を飲めば体の内側を落ちていく冷たさが空気にまで広がるようだった。母親に手を添えられて書く文字の、意味はわからなくても次にどう動くのかはわかるような気がしたし、友達と遊んでいてもつい、そのことを忘れてダンゴ虫を集めるのに夢中になったりした。 そんなふうに、世界に寄りかかって境目もおぼろげな日々を過ごしていた間は、案外長かったような気がする。 しかしやがて、思っていることは、自然にわかってもらえるものではなく、外に出そうとしなくては伝わらないのだということを知り、漠然と、わたしとわたし以外は何かが違うと