桜の向こうに雪が残る山並み、水が入り始めた水田のきらめき。 深い緑に覆われた夏の森、群れ飛ぶゲンジボタル。 波打つ黄金の稲穂、道端に静かにたたずむ野仏。 人の消えた冬の田園、雪に覆われた幻想的な白の世界。 先日、写真展「今森光彦 にっぽんの里山」を見に、東京都写真美術館に伺いました。私は以前から今森さんの写真に強く惹かれていて、とても楽しみにしていたのです。今回の個展は、今森さんのこれまでの集大成であり、大勢の人が詰めかけていました。 列に並んで美術館に入り、作品をじっくり拝見しながら、日本の里山を旅しているような気持ちになりました。そして不思議な思いにかられていきました。 今森さんの写真によって、私の記憶の扉が開きはじめたのです。胸の中に眠っていた記憶が、ひとつまたひとつ、それは鮮やかに呼び覚まされ、いつしか私は、かつてお訪ねした里山や、出会った人、そこで目にした人々の営み、いただいた言