「日本の治安は悪化していない」−。数々の凶悪事件や少年犯罪がメディアをにぎわす中、広がる一方の社会不安にくさびを打ち込むような言説が、社会学や統計学の現場から投げ掛けられている。龍谷大法科大学院教授の浜井浩一さん(46)もその一人。精緻(せいち)な犯罪統計分析で知られるだけでなく、異色なのは「元刑務所職員」という肩書だ。そのまなざしは「刑務所の風景」から、日本社会のゆがみを凝視する。 「治安悪化を主張する人たちは統計学や疫学をきちんと勉強しているだろうか。僕はそれを“信仰”と呼んでいます。治安が悪いと信じ込んで徹底的な監視社会をつくり、競争から落ちこぼれた人たちを不審者として排除する。そして刑務所が受刑者であふれ返る。日本はそんな格差社会を選んでいるんです」。京都市内の研究室で、膨大な資料に囲まれ、浜井さんは舌鋒(ぜっぽう)を鋭くした。 名古屋、愛媛、静岡、北海道−。自衛官の父とともに