フェル コラムニスト 堅気のリーマン稼業の傍ら、細々と物書きの真似事をしております。最近は講演やらテレビ・ラジオへの出演も増えてきました。いったい本業は何なのか自分でもよく分からなくなっています。 この著者の記事を見る
近年、若者の旅行離れが進んでいるという話をよく耳にする。インターネットの普及によって、国内でも海外でもこれだけ手軽に情報が得られるようになると、わざわざ足を運ばなくてもそこに行った気分になれる──そんな気持ちになるのも分からなくはない。 それでも、名の知れた歴史遺産にはやはり、実物だけが持つインパクトがある。その場所にたどり着くまでの道のりに歴史的なドラマがあり、その建物を目の前にすれば、実物の大きさや、逆に小ささ、手触りや匂い、日差しや湿気を感じる。書籍『旅行が楽しくなる 日本遺産巡礼 東日本編』、『同西日本編』では、文章担当の磯達雄とイラスト担当の筆者(宮沢)がそんな歴史遺産を実際に訪れ、現地で心を強く動かされた傑作中の傑作を東日本で30件、西日本で30件選んでリポートした。 書き出しがインターネット批判のように聞こえたかもしれないが、そうではない。インターネットは「現地での予想外の体
先日、飲み会の席で「…だって世の中、『飛行機がなぜ飛ぶか』ということすら、本当は分かっていないんですから」という声が聞こえてきた。読者の多くの方もきっと、同じ話を耳にしたことがあると思う。 「常識と思っていることは、実は単なる思いこみだ」という文脈か、「科学なんてたいしたことないじゃないか」という話か、そこまでは分からなかったが、声にはちょっと嬉しそうな響きがあった。 もちろん科学は宗教ではない(こちら)。「信じる」ことが基本姿勢の宗教に対して、科学のそれは「疑う」ことだ。リンク先の記事の通り、科学を宗教的なものと誤解しないためにも、「本当はどうなんだ?」と疑う姿勢は大切だ。その一方で、「結局、科学といっても本当は何も分かってないんだよ」という見方は、シニカルな態度にもつながっていきそうでなんとなく違和感がある。 それはさておき、高速で空を飛び、多くの人命を載せる航空機がなぜ飛ぶか、本当に
急激な環境変化に直面した時、新しい環境に適合できない生物は死に絶える。その暴力的な力を前に生物は無力だ。いや、その選択圧を利用して進化してきたのが生物の歴史とも言える。 今から6550万年前に衝突した巨大隕石によって地球の環境は激変し、興隆を極めた恐竜は死に絶えた。そして僅かに生き延びた哺乳類が我々の祖先となった。 いきなり大昔の恐竜の話を持ち出したのにはわけがある。日本メーカーが世界をリードしてきたデジタルカメラが存亡の危機に瀕しているからだ。カメラを愛して止まない1人の日本人として、これは看過できない問題だ。 コンデジ市場は4年で7割も萎む CIPA(カメラ映像機器工業会)は3月3日、デジカメの世界出荷統計を発表した。そのデータを見て、私は暗澹たる気持ちになった。 青い棒グラフが、レンズ一体式のコンパクト型デジカメ(コンデジ)の出荷台数を示している。右肩上がりで伸びてきた市場はリーマン
「今日は大きな発表はないらしい」。噂が広がるや否や、ため息が記者たちの間に広がった。スペイン・バルセロナで開催中の「Mobile World Congress」開催前日。スマホ向けOS「Tizen(タイゼン)」のプレス向け発表会でのことだ。韓国・サムスン電子や米インテルが主導するTizenは、今年1月にNTTドコモが、予定していたTizen搭載のスマートフォン発売を見送る発表をしたばかり。今回のイベントでは何か大きな発表があるかと期待されたが、結局肩すかしに終わった。 発表会では、Tizen AssociationのチェアマンであるNTTドコモの杉村領一氏が登壇。「昨年は『Tizenは終った』というニュースが2度も流れた」と話しながらも、着実に開発を進めていることを強調した。製品としては、今回サムスン電子が発表したTizen搭載のウエアラブル端末「Gear 2」を紹介。しかし、これについて
ヒロシマは人災で、フクシマは天災だというのは軽薄な発言だ。自然は、銃ではなく引き金にすぎなかった。原子力を考え出したのは人間だ。それは戦争中の発明だった。既に前例のない水準にまで分断され、虐殺が起こっていた対立の時代に、米英の科学者が究極の大量破壊兵器を作り出すために共同で行った「マンハッタン計画」の成果である。 原子力は、フランスや日本、マハラシュトラ州ジャイタプールへの電力供給のために創造されたものではない。これは人を殺すために生み出された。そして、定期的にその冷酷な牙を剥く。 売り込まれた「コントロール可能な人喰いトラ」というイメージ 我々は自ら生み出した怪物に心を奪われる。そこには常に弱々しい言い訳が存在する。つまり、フランケンシュタイン博士は自分の作った怪物を、普段は赤ん坊の世話をするロボットだと宣伝していた。だがそれは、怪物が創造主を破壊し、自らの運命を全うするまでの話だった。
気になる記事をスクラップできます。保存した記事は、マイページでスマホ、タブレットからでもご確認頂けます。※会員限定 無料会員登録 詳細 | ログイン そもそも大人が大人をしかれるのだろうか? 「しかっても部下がなかなか言うことを聞かない」という話を耳にする。これはしかる方に問題があるのだろうか、それとも言うことを聞かない方に問題があるのだろうか。 もちろん様々なケースがあって一概には言えないが、私はその上司に2つのことを言ってあげたい。1つは「そもそも大人が大人をしかれるのだろうか」という疑問だ。三省堂の国語辞典「スーパー大辞林」によると、【しかる】 とは「1.(目下の者に対して)相手のよくない言動をとがめて、強い態度で攻める。 2.怒る」とある。 目下とは「地位・年齢などが自分より下であること」だから、こと会社においては地位が上の上司が、下の部下に対して「強い態度で攻める」、あるいは「怒
気になる記事をスクラップできます。保存した記事は、マイページでスマホ、タブレットからでもご確認頂けます。※会員限定 無料会員登録 詳細 | ログイン 日本メーカーの製品は海外では売れない。スペック的には非常に高機能かつ高品質であるにも関わらず。日本という特殊な市場にのみ適用してしまった結果、世界では受け入れられなくなっている。そうした状況を、独自の生態系を反映させて栄えるガラパゴス諸島に見立て、日本はガラパゴス化していると多くの人が問題提起をしている。 ガラパゴスで何が悪いのか――。 スマートフォン「iPhone(アイフォーン)」やパッド型端末「iPad(アイパッド)」を擁する米アップルは、そうした意味では世界でガラパゴス化している。米アドビシステムズの動画技術「Flash(フラッシュ)」は動かない(ただし、2010年9月9日、アップルは開発規制を緩和する計画を発表している)。基本的に1カ
「今、困っていることは」と聞かれて、こう答える経営者はまずいない。不祥事や事故を起こした企業の経営者であれば「信用を取り戻したい」と言うかもしれないが、昔からそうだったとなると尋常ではない。 スペイン語で冒頭の回答をしたのは、ウルグアイのIT(情報技術)企業、アルテッチ社(Artech)の創業者であるブレオガン・ゴンダ(Breogan Gonda)社長である。記者になって25年、スペイン語の通訳を介した取材は初めてであったが、聞き間違えたわけではない。 “魔法”と誤解されるその製品は「GeneXus(ジェネクサス)」と言い、システム開発ツールと呼ばれる製品分野に位置付けられる。情報システムの設計・開発作業をコンピューターによって支援するものだ。 不思議なことに、情報システムの設計・開発にあたって、コンピューターはあまり利用されてこなかった。一連の設計・開発作業はすべて、システムズエンジニア
逆境でも不屈の闘志で復活の技術を生み出す「敗れざる者たち」として、まずは今年夏、国内外で注目された小惑星探査機「はやぶさ」プロジェクトに貢献したIHIグループのIHIエアロスペースの技術者を紹介したい。 はやぶさは、地球から3億キロも離れた小惑星イトカワから、満身創痍になりながら、戻ってきた。このプロジェクトの総責任者だった宇宙航空研究開発機構(JAXA)の川口淳一郎教授らの執念と知恵で、日本に感動を与える奇跡を演じてみせた。そこでは、IHIエアロスペースの技術者たちの活躍も大きい。 まずは、はやぶさのカプセルの耐熱素材などを担当したIHIエアロスペースの宇宙機システム室の森田真弥部長に聞いた。森田氏ははやぶさのカプセルが豪州南部の砂漠に落ちた時に、自らその回収を担当している。 (聞き手は佐藤紀泰=日経ビジネス編集委員) 森田 ええ、私がカプセルの外側の耐熱部分(ヒートシールド)の開発を担
遙から 遅ればせながら、大阪御堂筋線で初めて女性車両に乗った。乗るなり不思議な感覚に襲われた。女性ばかりだから、というだけではない、車両を満たす空気のようなものが性別を超えてある種の主張をしていた。それは“安心”とでもいおうか。 女性たちがあきらかにリラックスしていた。数人の女性が誰の視線を気にすることもなく化粧直しをしていた。世間では一時、車両内の化粧が物議を呼んだが、それは近頃の若い女性たち批判だった。だが女性車両に乗ってみると、年配の女性までもがコンパクト片手に口紅を塗っている。そう。化粧をしている女性は誰だって、どこでも自由に化粧直しがしたいのだ。私だってそうだ。感慨深く年配女性の化粧直しをながめた。駅に着くと、オッサンが乗ってきた。瞬時に空気が緊張したかと思いきや、それはオッサンに見える女性だった。まぎらわしさに吹き出しそうになるのを押さえた。 また、女性車両と知らず乗ってきた若
気になる記事をスクラップできます。保存した記事は、マイページでスマホ、タブレットからでもご確認頂けます。※会員限定 無料会員登録 詳細 | ログイン 筆者は、学生時代から現在に至るまで、自らの専門・仕事とは一見関係なさそうな進化論や生態学、はたまた動物行動学や人類学にも大いに興味を持ってきた。それは、進化論や生態学等には、随分とビジネス・経済や政治・社会問題・人間関係に応用できそうな理論やエピソードが満載で、宝の山にも思えたからである。 近年の社会科学の新潮流にも結構応用されているし、逆にゲーム理論などは経済学から進化論や生態学に広く取り入れられている。実際、筆者の本業であるエネルギー業界の動向分析にも、発想のヒント、切り口として結構役立ってきたと思っている。そこで、これら生物学的発想で、エネルギー分野の例も含めて、興味深い幾つかのビジネス的・社会的トピックスを、エッセイ的な知的エンターテ
先日、定食屋で読んだ《クロワッサン》の特集『家事嫌いの練習帳。』にも載っていたが、室内で哺乳動物を飼っている人には、自動掃除機がなによりありがたい。小は猫の抜け毛から大はバーニーズマウンテンドッグの抜け毛、オヤジの抜け毛まで、あらゆる室内買いペットに対応している。 ルンバに活躍していただくためには、床にものを置いちゃいけない。仕事中の私の周囲はエントロピーの増大が著しく、以前は椅子を中心に土星の輪のように資料が半円を描いていたものだが、最近はできるだけ片づけるように、というかそれ以前に 「使ったらもとの場所に戻す」 という幼稚園以来苦手だったことをこの年で心がけるようになってきた。 『アメトーーク!』で家電芸人のみなさんも言っていたとおり、買うだけで使わずとも部屋の散らかりが軽度になるのが自動掃除機のご利益である。数年前に話題となった環境管理型アーキテクチャを、わざわざマクドナルドに行って
2009年10月に連載を始めた「シアワセのものさし」。高知県在住のグラフィックデザイナー、梅原真氏の足跡を通して、ヒット商品を作る発想法や地域社会のあり方、個人の生き方などを考えた企画でした。連載は計10回。最終的に、書ききれなかったエピソードを加筆して、日本経済新聞出版社から書籍になりました(「おまんのモノサシ持ちや!」)。 ここで、梅原氏をご存じでない読者のために簡単に触れておきましょう。 農林漁業と辺境に関する仕事以外はお断り 梅原氏は1950年生まれの60歳。身長182cm、体重82kgの大男で、北大路魯山人を彷彿とさせる黒メガネと愛嬌の溢れる分厚い唇が特徴的。常にシャレとユーモアに満ちていて、飲み会の盛り上げ役も買って出る。このように、お茶目で楽しい性格を持つ反面、一旦、頭に血が上ると手に負えません。 クライアントだろうが、県庁のお偉いさんだろうが、漠然と依頼に行けば、「おまんは
サッカー日本代表は、決勝トーナメントに駒を進めた。 よく頑張ったと思う。 対パラグアイ戦は、延長を闘ってスコアレスドロー。PK戦で敗退した。 残念な結果だ。 退屈なゲームだったという声もある。今大会最大の凡戦であると。 たしかに、傍観者には退屈な試合であったことだろう。少なくとも、スペクタクルな展開ではなかった。 でも、私は、退屈しなかった。 当事者だからだ。 私の内部にはずっと見守ってきた4年間の蓄積がある。退屈している余裕なんかない。ボールがペナルティーエリアに近づくだけで心は千々に乱れた。あたりまえじゃないか。 「おい」 私はほとんど叫んでいた。 「リスクをおそれるなあ」 と。 それゆえ、試合が終わってみると、体中が硬直していた。 翌日は、節々が痛んだ。 でも、選手を責める気持ちにはなれない。甘いという人もあるだろうが、ファンはコーチではない。教師でも軍曹でもない。われわれは選手の祖
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