「ついに見本ができました!」 担当編集者の小袖山さんから歓喜に満ちた連絡があった。 翌日、森見登美彦氏は『有頂天家族 二代目の帰朝』の見本を受け取った。 第一部の刊行から七年半、つまり構想七年半(嘘)、編集者の方々・アニメ関係者の方々・舞台関係者の方々・そして読者の方々、あらゆる人たちの期待を不本意ながら裏切り続け、掴んで然るべきビジネスチャンスをことごとく逸して、延期に延期を重ねて幾星霜、もはやあの失われた砂漠の都的なハムナプトラと成り果てたかと絶望したこともある小説が、本当に一冊の本になってこの世に降り立ったのである。 登美彦氏は愛すべき本をひとしきり撫でた。 「ううむ、じつにかわゆいやつ」 なんとなくふわふわと、毛深い感じがしたという。 登美彦氏はここに至るまで支えてくれた大勢の方々、担当の小袖山さんに感謝するほかなかった。 登美彦氏は出来上がったばかりの本を意気揚々と掲げて廊下に立