【福井 玲 序より】 伊藤智ゆきさんの 『朝鮮漢字音研究』 が上梓されることになったことを感謝します。 本書は東京大学大学院人文社会系研究科に提出された博士論文をもとにしており、 その完成直後から、 閲覧と出版物としての公刊を希望する研究者が国内外であとを絶ちませんでした。 先行研究として朝鮮語学の大先輩である河野六郎先生の代表作 『朝鮮漢字音の研究』 があり、 後発の研究としてはその結論や個々の論点において、 異なった見解を打ち出す必要があります。 伊藤さんと河野六郎先生の研究を比べて、 結論に違いをもたらした要因にはさまざまなものがありますが、 重要な点の1つは、 朝鮮漢字音の資料として河野六郎先生の時代には閲覧できなかった新しい資料が発見され利用されるようになっていた、 ということがあげられます。 こうした資料について伊藤さんは書誌学的に、 また異本が存在する場合はそれらの間での校合