東北で大きな地震があった頃、ぼくは東京のど真ん中の超高層ビルの中のオフィスでデザインの仕事をしていた。 あの頃の日々は表面的あるいは物質的には充実していたように思うが、実際のところ精神面では多様なストレスに塗れていて、仕事の内容に関しても得ることより明らかに失うことの方が大きな割合を占めていた。 職場でのぼくの席の隣には、ぼくと同時期に入社した年齢がひとつ下の女性が座っていた。様々なタイミングや条件が重なり、ぼくは彼女と時々ランチを共にしてごくプライベートな内容の会話を交わすようになった。ただ彼女は言葉数が極端に少なく、話の内容や表現も直感的もしくはある意味野性的なことが多く、ただ黙って二人で食事を済ませるだけということも度々あった。けれどその沈黙は決して居心地の悪いものではなく、ぼくは彼女のそういう部分に魅力を感じていた。 彼女はもちろん正式な戸籍上の名前を持っていたし、職場では当然その