「えっ、1ヶ月3500円、嘘でしょ?」 私が妻のモミとの別居を余儀なくされたのは、まだ梅雨もあけ切らない7月はじめのことだった。最終的に離婚という決断をするかしないかを判断する前に、しばらく離れて暮らす時間を持つべきだという提案を出したのはモミでも私でもなく、2人の共通の知人である大学教授のイグチさんだった。 結婚して一緒に暮らしていれば相手の欠点や汚らしい部分なんてものは宇宙的な数にのぼるほど見えてくる。それに比べれば互いへの愛なんてものは実にわずかな数でしかない。けれどそれは数で比べるような事柄ではなく、あるいは質の問題でもなく、まったく次元の違う話なのだとイグチさんは言った。ひとつの大好物のイチゴを食べるために、大嫌いなキュウリを1000本食べなければいけないのかという話ではなく、2人を結びつけている本質的な闇と光を改めて互いが別々に探し求める時間を持つべき時なのだと、イグチさんは付