東京電力福島第一原発で増え続ける放射性物質トリチウムを含んだ処理水を巡り、菅義偉首相は国民の理解を得ぬまま、海洋放出の方向性を示した。再び県民が風評被害、偏見、差別にさらされる恐れがある。政府は有効な手だてを講じてこなかったばかりか、新たな風評を自ら作り出そうとしている。まさに「官製風評」と言える。処理水を巡る風評の行方を追い、政府の姿勢を問い直す。 「関係者の理解なしには(処理水に関する)いかなる処分も行いません」 政府が二〇一五(平成二十七)年八月、県漁連と交わした約束だ。福島第一原発の原子炉建屋周辺のサブドレン(井戸)から地下水をくみ上げ、浄化後に海洋放出する計画を実施する際、県漁連が「漁業者、国民の理解を得られない海洋放出は絶対に行わないこと」と求めたのに対し、政府が回答した。 にもかかわらず、政府は十三日にも開く関係閣僚会議で、処理水の処分方法を海洋放出と決定する方向で最終調整し