「死にたい気持ちは確かにあるのに、突き詰めていくと『もう仕方がない』という諦めの境地に達するんだな。これまで小説という虚構の中で簡単に人を死なせてきたけれど、死ぬのは簡単じゃない。死ぬのは大変なことなんだと初めて気づきましたよ」 2018年に骨髄異形成症候群という血液のがんと診断され、骨髄移植を含む治療を続けている小説家の花村萬月さん。筆舌に尽くしがたい治療の過程を小説『ハイドロサルファイト・コンク』に昇華させた。次々襲い来る体の痛みは、やがて心も蝕んでいき、ついには自死さえ考えた。 体中の毛が抜け落ちるのは抗がん剤の影響かと思っていた 骨髄移植から4年が経過した今も、花村さんは毎日10種類以上の薬を飲んでいる。これでもかなり減ってきたそうだが、自宅の食卓の上に置かれた薬ケースの中には、朝・昼・晩と飲む時間によって仕分けされた大量の錠剤が入っていた。