小説を読む喜びが、連れて行かれること、のめりこむこと、そして戻ってこられることであるならば、これは極上の喜びをもたらしてくれる。 テーマは冒頭で分かる。三作の銅版画に表された情景を、後の連作が明かしてゆくように見える。中心となるのは「冬眠者」、冬のあいだ眠り続ける宿命を持つ人々だ。丁寧に研磨された描写を追いながら、輻輳した伏線を解いてゆくと、徐々に不穏な動きを見せつつ、破滅への緊張が高まっていくのが分かる。 設定は作中にて説明されず、あちこちに散りばめられた描写や会話をヒントに、読者が汲み取らなければならない、読み巧者な仕様となっている。複数の人物の目線を次々と切り替えながら、畳み込まれたエピソードを丹念に広げてゆくと、隠された真実が徐々にたち現れてくる。かつ消えかつ現れるもつれたヒントが、ラスト近くなって一気に判明する。 ただし、秘密は明らかになっていくものの、ラストに収斂したとしても、
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