──二〇一八年、四月。 露伴は東京をブラついていた。 春の東京。ビルの谷間から覗く夕陽を見上げながら、露伴は此処に来るまでの経緯を思い返す。あれは数日前のこと── 「『個展』の目玉として、「壁画」を作成して欲しいィ?」 ──S市内のとある喫茶店にて。 露伴の眉が、普段より一層不機嫌そうに顰められた。 しかし余人であればあっさりと気圧されて萎縮しそうな彼の怒気に対しても、それをぶつけられた張本人はケロリとしたもので、 「えェ」「はぁい」 「もちろん岸辺露伴先生というだけで」「十分な『注目度』は得られるかと思いますがァ~」 「やはり岸辺露伴の記念すべき一回目の『個展』ともなれば、そこにしかない「特別な体験」が必要……」 彼の対面の席に座る女──泉京花は、そう言ってず(・)い(・)と身を乗り出す。 「『今回の個展の為に書き下ろした特別な壁画』ッ! これ絶対ウケると思いませんかァ~!?」 「………