片岡義男の書くもの、とりわけ日本語に関するエッセイにはいつも驚かされる。思いもよらない角度からの指摘に意表を衝かれ蒙を啓かれる、といったふうである。「図書」2月号のエッセイ「西伊豆でペンを拾ったら」(連載「散歩して迷子になる」の第35回)も、そうしたエッセイのひとつである。 片岡義男がまだ二十代の頃、新宿ゴールデン街の飲み屋で田中小実昌に行き遇った、という。「西伊豆でね、俺はね、ペンを拾ったんだよ」と、コミさんは片岡義男に話しかけた。「テディ、お前さあ」とコミさんはいう。片岡義男は当時、テディ片岡という名前で雑誌にコラムを書いていたのである*1。「西伊豆でペンを拾ったことを英語でなんと言うか、お前、わかるか」。むろん、コミさん一流のジョークである。そう察した片岡義男は、こう答えた。「ニシ・イズ・ア・ペン」。 「僕がもっとも注目するのは」と片岡義男は書く。 「西伊豆でペンを拾った、という文章