もう28年前のことになります。師匠談志に入門して1年経ったある日のことでした。 練馬にある師匠の自宅で、ともに前座修行をしていた兄弟子が突然「俺、落語家やめるわ」と言い出しました。 その場にいたまだ20代だった私と他の前座3人は唖然(あぜん)。確かに、その兄弟子の前座修行は身が入っていないように見えましたが、喋(しゃべ)りにセンスがあったので、いま辞めるのはもったいないんじゃないかという声も出ました。 しかし、兄弟子の決心は固く、これから談志にそのことを告げる覚悟だと言います。しかも「師匠談志のところを辞めて、たけし師匠のところに行こうと思ってるんだ」 たけしとはもちろんビートたけし、北野武さんのことです。 これも師匠に話すと言うので、ただ辞めるでいいんじゃないか、どうしてわざわざよそへ行きたいと告げねばならぬのか、と全員で止めたが「だって、その方が行きやすいから」というなんだかよくわか

