右手に『iPad』を持ち、リアルタイムで送られる眼前の試合データとにらめっこ。檄(げき)を飛ばすどころか、表情ひとつ変えず、中田久美は試合の行方を見守っていた。 世間がイメージする激しさはまるでなく、ただ静かに。左胸には19年ぶりにつける日の丸が輝いていた。 2011年1月、中田久美が女子ユース日本代表チームのコーチに就任した。カテゴリーの違いこそあれ、「天才セッター中田久美」が「全日本」の指導者として新たな一歩を刻む。どんな指導をするのか。どんな選手を育てるのか。選ばれたユース代表の選手たちよりも、中田のほうが注目を集めたと言っても過言ではない。 好奇に満ちた周囲の目を、誰より中田自身が感じていた。 「大変なのは分かっていますよ。でも、それを跳ね返すのが好きだし、いつも戦っていないと、私、死んじゃうから」 8月の世界ユースへの帯同期間、協会から中田に支払われる報酬は1日わずか1