世に「毒母」という言葉が浸透し、毒になる母親の存在が、一部の世間でとはいえ認知されるようになって久しいと思いますが、毒になる父親の存在は、どうでしょうか。世の中には、毒母と同等の、もしくはそれ以上の害を子に及ぼす父親、というのも、存在することを私は実体験から知っています。しかし、父親の害を言語化するのは、母親の害を言語化するのと同じく、難しい。 創作物に触れるということは、自分の経験を自分なりに言語化するヒントをいただくことでもあると思います。中村珍さんの『誰も懲りない』(太田出版)は毒になる父親がどういったものか教えてくれる傑作であり、私はこの作品から、自分の父との関係を言語化するヒントを沢山いただいています。 『誰も懲りない』の主人公、藪登志子(やぶ・としこ)をひどい目にあわせるのは、父親のみならず、近親者全員です。いわば精鋭の毒親族が勢ぞろいしたドリームチーム、それが登志子の近親者で