ベルギー生まれのフランス画家・詩人、アンリ・ミショーは、記号とも生物ともつかない不思議な形態によるドローイングを1930年代から半世紀にわたって描き続けました。サボテンから抽出される幻覚剤メスカリンの実験的服用によってイメージが発生する地点を探求するなど、きわめて独特な制作活動を展開し、現代の画家の多くに影響を与えた、知る人ぞ知る存在です。 彼の作品は常に、流れるような運動感を帯び、エネルギーの奔流に満ちています。そして、そこには頻繁に無数の人間の姿が浮かび上がってくるのです。今回の展覧会は、とりわけこの人物像の出現に注目しつつ、ミショーの奥深い世界をあらためて探ろうとするものです。一気呵成に、駆け抜けるようにして描き上げられた彼の画面の中に、わき上がるように生まれ出、動き回るひとのかたちには、長く人間を描いてきた絵画という営みを今一度原点から問い直させるような原初的な力が秘められています