「わからんな」 「わかりませんか」 「わからん。犯人が『なぜ被害者の部屋にある本棚の本をすべて抜き取ったあと、また戻したか』についてはさっきの君の説明で納得いった。しかし、それでは肝心の犯人がわからんじゃないか。だれにでも出来る殺人だ。被疑者が絞れん」 「それがですね、実はこの本棚こそ犯人をピンポイントで指し示す、最大の証拠品なのですよ」 「どういうことだ」 「それを今から説明します。まずはこのプリントをご覧ください。これは被害者の読書履歴をリスト化したものです。読書メーターからとってきました」 「なかなか残酷なことをする……。なるほど、ミステリ好きという話は嘘じゃなかったみたいだな。翻訳ミステリの有名作がならんでおる。だが、これで何がわかると?」 「注目すべきはこの本です。江戸川乱歩編『世界短編傑作選3』」 「シリーズの三巻だけ読むのが奇妙だと? それはキミ、素人の浅はかだよ。アンソロは