『ポストコロナのSF』『2084年のSF』『AIとSF』につづく、日本SF作家クラブ編の書き下ろしアンソロジー第4弾。先行する三冊にくらべ、『地球へのSF』という括りかたは曖昧だが、そのぶん多彩な作品が集まったとも言える。「まえがき」で同クラブ会長の大澤博隆さんは、〔そもそも「地球」をテーマに視線を飛ばせること自体が、SFの特技ではある〕と述べている。全二十二篇。 ディストピア的状況を描いた作品では、上田早夕里「地球をめぐる祖母の回想、あるいは遺言」が出色の出来。テラフォーミング途上の火星において、入植第一世代の祖母と火星生まれの孫との会話によって、地球が精神の自由を喪失した経緯が明かされる。それはいまの日本を蝕む格差・棄民・監視・情報統制の行きつく先にほかならない。火星に逃れたひとびとにも、その圧政の波がおよぼうとしている。この作品が扱っているものは、先週紹介したジョナサン・ストラーン編
《三体》シリーズが爆発的にヒットし、名実ともに世界のSFシーンを牽引する存在となった劉慈欣。本書は、彼がブレークする前の2004年に発表された、短めの長篇である。 人類があらわれるより遙か以前に台頭した、二種類の知性のもつれにもつれた運命が描かれる。ひとつは恐竜であり、もうひとつは蟻だ。どちらも単体では知性を文明にまで昇華させる力はなかった。恐竜には器用な前肢がなく、原始的な工具以上のものは操れない。いっぽう、蟻は集団でこそ知性が生じるが、その知性は融通がきかない創造性に欠けるものだった。 しかし、この二種類の知性は、偶然にも互恵的な共生関係を結び、支えあうようにそれぞれの文明をかたちづくっていく。最初は蟻が恐竜の歯を掃除し、恐竜があまった食物を蟻に提供するという程度だったものが、やがて高度な医療、文字による意思疎通、情報の記録、蒸気機関の発明、輸送技術の進歩......と発展。恐竜も蟻も
『最後の宇宙飛行士 (ハヤカワ文庫SF)』 デイヴィッド・ウェリントン,中原 尚哉 早川書房 1,430円(税込) 商品を購入する Amazon HonyaClub HMV&BOOKS honto NASAの有人火星ミッションが失敗し、宇宙開発がすっかり停滞して二十年。太陽系外から飛来し、地球へと向かうコースをたどる天体2Iが発見される。驚いたことに、慣性での移動ではなく減速をつづけているのだ。ということは異星の恒星船か? 色めきたったNASAはお蔵入りしていた探査用宇宙船オリオン号を打ちあげる。乗組員は四人。ベテラン宇宙飛行士サリー・ジャンセン(彼女が船長)、軍人ウィンザー・ホーキンス、2Iの発見者である宇宙物理学者サニー・スティーブンス、宇宙生物学者にして医学博士パーミンダ・ラオ。 オリオン号はぶじ2Iに接近するが、そのときすでに別な宇宙船が2Iへ先乗りしていたことが判明する。民間企業
『獣たちの海 (ハヤカワ文庫 JA ウ 4-6 The Ocean Chronicle)』 上田早夕里,Tarosuke 早川書房 880円(税込) 商品を購入する Amazon HonyaClub HMV&BOOKS honto 海面上昇が引きおこした人類の変容を扱う未来史《オーシャンクロニクル》の最新短篇集。収録の四作品すべてが書き下ろしという贅沢な一冊だ。 《オーシャンクロニクル》では、生物学をはじめとする科学や技術面での斬新なアイデアがいくつも投入されるいっぽう、国際状況・政治形態・社会構造におけるダイナミックな状況変化とそれに付随する登場人物の葛藤が描かれる。とくに日本SF大賞を受賞した長篇『華竜の宮』、およびその続篇『深紅の碑文』は、すれっからしのSF読者でさえ圧倒せずにはおかない。環境と生命にかかわる壮大なヴィジョンという点で、フランク・ハーバート《デューン》に肩を並べるシリ
2068年、グーグル(をはじめとするデジタルの覇者である巨大企業)が世界を掌握していた。日常に浸透したネットワークにより、市民のあらゆる情報は集積され、徹底した――しかし体感的にはマイルドな――常時監視社会が完成している。私たちの行為や嗜好はすべてグーグルに筒抜けだ。それが「透明性」というタイトルの意味だ。 独裁的な全体主義とは違い、直接に弾圧されるわけでもない。また、個人情報もプライバシー侵害や思想の選別に用いられるのではなく、ただデータとしてアルゴリズムで処理される。多くのひとびとは情報を提供するかわりに、経済的報酬、広範な無料サービス、行きとどいた健康状態チェックが得られるため、むしろ喜んでこの状況を受けいれていた。国家さえもグーグルに依存しなければ立ちゆかない。もはやグーグルが法なのだ。その支配に与しないのは、信念のあるごく一部の人間だけだ。 しかし、その状況を一挙にくつがえす計画
『最終人類 上 (ハヤカワ文庫SF)』 ザック・ジョーダン,中原 尚哉 早川書房 1,078円(税込) 商品を購入する Amazon HonyaClub HMV&BOOKS honto 『最終人類 下 (ハヤカワ文庫SF)』 ザック・ジョーダン,中原 尚哉 早川書房 1,078円(税込) 商品を購入する Amazon HonyaClub HMV&BOOKS honto ザック・ジョーダン『最終人類』(ハヤカワ文庫SF) 『最終人類』、原題はThe Last Human。人類最後の生き残りであるサーヤの物語だ。この宇宙には、おびただしい種族が、平凡な知性から超越的知性まで階層化され、物理的・情報的なネットワークによって秩序づけられ、それなりに共存していた。なかには、知能形式が特異な種族、邪悪な種族、剣呑な種族もいる。サーヤの育て親であるシェンヤは勇猛で冷徹な殺し屋ウィドウ類だが、盲目的と言っ
『19世紀イタリア怪奇幻想短篇集 (光文社古典新訳文庫)』 橋本勝雄,橋本勝雄 光文社 1,100円(税込) 商品を購入する Amazon HonyaClub HMV&BOOKS honto 橋本勝雄編『19世紀イタリア怪奇幻想短篇集』(光文社古典新訳文庫) イタリアの幻想小説と聞いてまず思いうかぶのは、イタロ・カルヴィーノ、ディーノ・ブッツァーティ、トンマーゾ・ランドルフィなど二十世紀の作家たち、あるいはずっと時代を遡った『神曲』のダンテである。そのあいだがスッポリ抜けおちている。これは日本への翻訳紹介のされかたによるものかと思いきや、本国イタリアでも事情はそれほと変わらないらしい。本書の「解説」で、橋本勝雄さんは「十九世紀イタリアの幻想小説は、二重の意味で陰に隠れた存在」と指摘する。二重の意味は、(1)十九世紀イタリアには幻想小説のビッグネームが出なかった、(2)幻想小説が文壇・文学史
作家自身は、どんな「本屋のお客」なんだろう?そしてどんな「本の読者」なんだろう? そんな疑問を、作家の方々に直撃インタビューです。 作家の読書道 第226回:酉島伝法さん 2011年に「皆勤の徒」で第2回創元SF短編賞を受賞、造語を駆使した文章と自筆のイラストで作り上げた異形の世界観で読者を圧倒した酉島伝法さん。2013年に作品集『皆勤の徒』、2019年に第一長編『宿借りの星』で日本SF大賞を受賞した酉島さんは、もともとイラストレーター&デザイナー。幼い頃からの読書生活、そして小説を書き始めたきっかけとは? リモートでお話をおうかがいしました。 ――いちばん古い読書の記憶から教えてください。 酉島:寝る時に母親が読み聞かせてくれたことだと思います。最初の頃は普通に絵本や童話だったと思うんですが、ある時なぜか、上温湯隆の『サハラに死す』を読んでくれたんですよ。サハラ砂漠を渡ろうとして行方不明
リリース、障害情報などのサービスのお知らせ
最新の人気エントリーの配信
処理を実行中です
j次のブックマーク
k前のブックマーク
lあとで読む
eコメント一覧を開く
oページを開く