◆某月某日。編集者の中川六平さんが亡くなった。みんな「六さん」と呼んだ。いつだって首に手ぬぐいをまいて「ヤアヤア」と現れる気さくな人だった。 十五年ほど前、晶文社にいた六さんは『古本屋月の輪書林』(高橋徹)、『石神井書林日録』(内堀弘)、『彷書月刊編集長』(田村治芳)の三冊を作った。本人はこれを古本屋三部作と呼んでいた。ブログもツイッターもない時代だ。ベテランでも老舗でもない古本屋が、その日々を書くなんて初めてのことだった。中でも『古本屋月の輪書林』は評判も良くて、それからも若い古本屋のバイブルのようになった。それを「オレの勘だよ、勘」、つまり「自分は勘がいい」と得意そうに話したものだった。たしかに、六さんから勘をとるとたくさんのものは残らない。でも、それは古本屋という仕事も同じだった。 山口昌男さんが「六平はハラッパ的編集者」と言ったことがある。ハラッパではその時々でメンバーも変わればル