中華屋で会った顔が大きい男 徹は「ラッキー園」を出ると道の向かい側の「中華屋・ぶんぺい」の暖簾が出ているのを確認した。信号が青に変わったのを確認すると、急ぎ足で歩道を渡る。 「こんちわ」 「中華屋・ぶんぺい」の戸を開ける。ガラガラと音を立てて開いた。まだ中には客は1人しかいない。午前11時40分過ぎ、これがあと数十分もすればいつの間にか満員になる。ほんの20分の差で待たなければいけないか待たなくてすむか。 「どうも、いらっしゃい」 いつもの文平の声が店の奥から聞こえた。昼間は厨房の中に2人、客対応に1人の3人で対応する。厨房の中では文平の妻・ゆう子、接客はアルバイトの井戸くみ子が手伝っている。くみ子はまだ30歳になったばかりで、店の近くのマンションに住む主婦だ。 もちろん、昼は「中華屋・ぶんぺい」にとって忙しい時間帯だから、いつもこの時間帯はほとんど徹が文平と話すことはない。徹も店に置いて