■またいつか新しい答えが マラソンの高橋尚子さんとお会いした。私が、元・昆虫少年だと知ると、彼女もまた子どもの頃、チョウが羽化する様をじっと見届けたと語ってくれた。 幼虫、蛹(さなぎ)、蝶(ちょう)。これほどまで劇的な変化が他にあるだろうか。子どもたちの心は、瑞々(みずみず)しい驚きの前にただひざまずく。 なぜ蝶はかくもみごとに変身するのか。実は生物学は「なぜ」に答えることができない。答えうるのは「いかに」という問いのみ。いや、「なぜ」に答える方法論が唯一ある。進化論。生物のなぜに対する答えはひとつ。それが生存に有利だったから。あらゆることが適応の物語で説明できる。たとえば姿形を変え住処(すみか)をジャンプすれば、敵の目をくらませ生き延びるチャンスが広がる? 昆虫少年の心にはすとんと落ちない。 今回はあえて進化論の「正史」に対して抵抗を試みた語り部に触れてみよう。 ■適応論への反旗 古生物