はやぶさが帰ってくる。イオンエンジンも無事に再点火。めでたい。プレスリリースでは、 これまで慣性飛行を続けてきた「はやぶさ」のリアクションホィールを駆動させ、三軸姿勢制御を確立後、本日イオンエンジンを再点火させて動力飛行を開始しました。 と非常に淡泊な書き方で済まされているが、リアクションホイールが3軸のうち2軸故障、化学燃料スラスタも燃料漏れで使用不能という状況にもかかわらず3軸姿勢制御を実現できているというのははやぶさチームの神業によるものなのです。上記のプレスリリースに書かれていない神業部分を補足すると以下の通り。 はやぶさの形状を人間に例えると、頭の位置にアンテナがあり、両手を横に広げた形で太陽電池パネルが翼のように付いていて、背中にイオンエンジンを背負っている。これまでの1年4ヶ月間は動力飛行や姿勢制御を全く行わず、胴体をゆっくり自転させることで姿勢を安定させていた。自転軸の延長線上(頭上)に太陽があるような姿勢になっているので、スピンしてもアンテナと太陽電池は常に太陽を向いている。 今回帰還を始めるためには、まずスピンを止める必要がある。唯一生き残っているリアクションホイールはこのスピンと同じ回転軸(ヨー軸)を制御するものなので、ホイールを回せばスピンは止まる。3軸制御をするためには、あと2軸の制御をしなければならない。ここで、はやぶさが背中に背負っているイオンエンジンのノズルは上下左右に±5度だけ首振りできるようになっている(ジンバル機構)。本来はイオンエンジンの推力の方向を微調整するためのものだが、これを上下に振って噴射すれば、残り2軸のうち仰角方向(はやぶさが「おじぎ」をする方)の回転軸(ピッチ軸)の制御ができる。 3軸制御をするにはあと1軸、はやぶさが「側転」する方の回転軸(ロール軸)も制御しなければならない。イオンエンジンのノズルは左右にも動かせる自由度があるが、左右に振ってもリアクションホイールと同じヨー軸の回転にしかならないので意味がない。そこではやぶさチームは、頭上の太陽から来る光の「光圧」を使うことにした。はやぶさは機体中心に質量が集中していて、そこから両側に太陽電池パネルを広げた形をしている。よって、傾いた状態で太陽光を受けると、光子がぶつかる運動量によってロール軸の周りにわずかながらトルクが働くことになる。これを利用すればロール軸方向の姿勢も制御できる。ソーラーセイル状態ですね。 …という、ほとんどチートと言ってよいウルトラE級の技をひねり出すことで、満身創痍のはやぶさを3軸姿勢制御する方法をチームは確立した。これが2007年の4月。この手法が実際に使えそうであることを確認し、はやぶさの姿勢制御プログラムをこの超裏技方式に書き換えてから、はやぶさをスピン安定モードにしてこれまで「冬眠飛行」させていた。今回1年4ヶ月ぶりに、冬眠前に練習しておいたこの超裏技を使って姿勢制御を行いながら、イオンエンジンを吹かして地球へ帰る旅を始めますた、というのがあのプレスリリースの一文の意味なのです。光圧を宇宙機の姿勢制御に使うなんて聞いたことねーよ。しかもこういうのをいちいち説明しないところがかっこいい。

fuyufuyufuyufuyufuyufuyu のブックマーク 2009/02/08 11:23

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