以上はギリシャ神話の「トロイの木馬」のあらすじである。21世紀の現実世界において、人類に立ちはだかるのはトロイではなくて病気。中でも罹患率が高く、命を奪ってしまうことも多いがんは難敵だ。 現代のオデュッセウス、東京大学大学院工学系研究科・医学系研究科の片岡一則教授は、難敵のがんに立ち向かう「ナノスケールのトロイの木馬」を開発した。それが抗がん剤を入れて使う、粒径10万分の3ミリメートルというウイルスサイズの極小カプセル。その名も「高分子ミセル」だ。難治性のがんに効果があり、抗がん剤の欠点も克服できる治療法として、世界的な注目を集めている。 「僕が高校生のときに、医者が小さくなって宇宙艇のようなものに乗り、体の中に入ってがんや脳腫瘍を治療する『ミクロの決死圏』というSF映画がありました。でも、これは人を小さくしているという点で古い。われわれの高分子ミセルは、最近の無人戦闘機同様、リモートコン