土地に染みついたまじないを見出すことは、こんにち容易ではない。複製したような街並みからは、積み重なった人々の息吹が聞こえてこない。それでも稀には、曲がり角や坂道や、古い三角点や剥落した石碑に、物語の予感を感じることがないでもない。優れた小説家は卓越した目でそれらの予感を見出し、それぞれの手の内のなにかを加えて、見慣れた土地をあらぬ姿へと変容させることがある。そうした、ここであってここでない場所の話が、私は好きだ。 よねざわほのぶ 岐阜県生まれ。2014年『満願』で山本周五郎賞を受賞。近著に『いまさら翼といわれても』。©杉山拓也/文藝春秋 『神州纐纈(こうけつ)城』は日本にあやしの術をかける。広大な富士の裾野のどこかに建つ纐纈城では月に一度、捕らえた人々の血を絞り、目にも鮮やかな赤い染め物が生み出される。因縁は巡り、やがて緑深い富士の樹海から、災厄が甲府へとやって来る。妖美の世界に総身でのめ
![日本という異界を知る――米澤穂信が選ぶ10冊 | 文春オンライン](https://cdn-ak-scissors.b.st-hatena.com/image/square/1f609eb88bc93b1ea14bf404c68d65d02daed294/height=288;version=1;width=512/http%3A%2F%2Fbunshun.jp%2Fmwimgs%2Fa%2F2%2F-%2Fimg_a2d492e8b9f64c8dafbdfab229cf8c4a196702.jpg)