フランスの大衆小説作家アレクサンドル・デュマ(大デュマ)の長編《モンテ・クリスト伯》の抄訳が初めて日本に紹介されたのは明治二十年、関直彦による『西洋復讐奇譚(きたん)』というものであった。 日刊紙「萬(よろず)朝報」の社主だった黒岩涙香が英訳本から重訳し《巖窟王》という題で新聞連載を始めたのは明治三十四年(一九〇一)三月十八日である。翌年六月十四日にこれが終結すると次にヴィクトル・ユゴーの《レ・ミゼラブル》を《噫無情》の名で連載した。この二つの翻訳小説は戦前広く愛読され、現在でも少年少女向き文学全集では『巌窟王』『ああ無情』のタイトルが使われている。 デュマの原作も新聞小説として登場したもので一八四四─四五年、パリの「討論(デバ)」という新聞に連載された。これに前後してデュマは《三銃士》と《王妃マルゴ》を発表し、《椿姫》を書いた同姓同名の息子(小デュマ)らも加わって、ストーリーの面白さを前
黒岩涙香訳《噫無情》を読む楽しさの半分は、日本語のおもしろさにある。 虚呂々々、動揺々々と書いて、きょろきょろ、どやどやと読ませる。漢字に全部ルビが振ってあるから、さまざまの芸当ができる。例えば、情死のふりがなは、しんぢう(心中)。登場人物は日本名である。刑事ジャヴェールは蛇兵太(じやびやうた)、悪党テナルディエは手鳴田(てなるだ)。コゼットは小雪でマリユスは守安(もりやす)。エポニーヌが疣子(いぼこ)でアゼルマが痣子(あざこ)、シャンマチウはなぜか馬十郎(うまじふらう)。人物を日本式に替えただけではない。後篇の市街戦の場面で、バリケードに最後まで残るのは原作では三十七人の共和派の青年だが、涙香はこれを一揆で討ち死にを覚悟した四十七人としている。百姓一揆や赤穂浪士のイメージと重ね合わせているのだ。 涙香の《噫無情》は、江戸期からの古典や漢籍、芝居や話芸の言葉、それに開化後に導入された西洋の
1862-1920 本名は周六。ジャーナリスト、翻訳家、文筆家。高知県生まれ。大坂英語学校に学んだのち17歳で上京。文筆による政治活動を経、24歳「絵入自由新聞」主筆、のち「都新聞」主筆、同紙に次々と翻訳小説を連載し好評を博したが、交代となった新社長と意見が衝突し退社。退社仲間と共に30歳(1892年)「万朝報《よろずちょうほう》」を創刊。新聞経営のかたわら同紙に『鉄仮面』『巖窟王』『噫無情』など翻訳小説を発表し続ける一方、社会面に著名人の妾調査など掲載し「三面記事」の語源ともなる。また、人文関連の著書には『小野小町論』『天人論』などがある。 「黒岩涙香」 公開中の作品 暗黒星 (新字新仮名、作品ID:49329) →ニューコム シモン(著者) 探偵物語の処女作 (新字新仮名、作品ID:43540) 血の文字 (新字新仮名、作品ID:1416) 無惨 (新字新仮名、作品ID:141
「有名な幽霊塔が売り物に出たぜ、新聞広告にも見えて居る」 未だ多くの人が噂せぬ中に、直ちに買い取る気を起したのは、検事総長を辞して閑散に世を送って居る叔父丸部朝夫(まるべあさお)である。「アノ様な恐ろしい、アノ様な荒れ果てた屋敷を何故買うか」など人に怪しまれるが夏蝿(うるさ)いとて、誰にも話さず直ぐに余を呼び附けて一切買い受けの任を引き受けろと云われた。余は早速家屋会社へ掛け合い夫々(それぞれ)の運びを附けた。 素より叔父が買い度いと云うのは不思議で無い、幽霊塔の元来の持主は叔父の同姓の家筋で有る。昔から其の近辺では丸部の幽霊塔と称する程で有った。夫が其の家の零落から人手に渡り、今度再び売り物に出たのだから、叔父は兎も角も同姓の旧情を忘れ兼ね、自分の住居として子孫代々に伝えると云う気に成ったのだ。 買い受けの相談、値段の打ち合せも略(ほ)ぼ済んでから余は単身で其の家の下検査に出掛けた、土地
叔父の命を受け、丸部道九郎が訪れた屋敷は、過去の忌まわしい事件の数々より幽霊塔と呼ばれていた。殺人のあった時計台直下の室、彼は絶世の美人、松谷秀子を知る。不可解な行動を重ねる怪美人、彼女が立ち去った後、一輪の薔薇と共に残された咒語、「鐘鳴緑揺」の意味は?「アノ家へ入らっしゃれば、迚も活きては返られません」謎を追い養蟲園へ向う主人公。「全く悪魔の世界だよ、悪魔が人間を弄ぶのだ」幽霊塔の屋敷で次々と起る異様な事件。錯綜したプロット、さまざまに仕組まれた犯罪、時を越えた人間模様が、幽霊塔の精密な機械装置を舞台に、結末へ向かい収斂して行く。江戸川乱歩が心酔し自らも翻案を挑んだ、涙香ロマン代表作の一つ。 「万朝報」明治三十二年(1899年)八月十日 ~ 翌三十三年三月九日 訳載『幽霊塔』前編、後編、続編(三冊)、扶桑堂、明治三十四年(1901年)刊行。 原作は序文に"The Phantom Towe
『幽霊塔』(ゆうれいとう)は アリス・マリエル・ウィリアムソンの小説『灰色の女』を基にした黒岩涙香の翻案長編小説。 黒岩涙香の翻案小説『幽霊塔』を江戸川乱歩がリライトした長編小説。 作品について[編集] 『幽霊塔(ゆうれいとう)』は、アメリカの女流作家、アリス・マリエル・ウィリアムソン(Mrs. Alice Muriel Williamson, 1869-1933)の小説『灰色の女』(英: A Woman in Grey, 1898年)を基にした日本の翻案小説。時計塔のある古い屋敷を舞台に、因縁の人物が入り乱れ、迷路の奥に隠された宝を巡って繰り広げられる探偵小説である。 1899年『幽霊塔』 - 黒岩涙香が『幽霊塔』の題名で翻案。萬朝報に新聞小説として連載(1899年8月9日~1900年3月9日)した。人名はほとんど日本風に変えられているが原則イギリス人として設定され、舞台もイギリスである
株式会社旺文社(おうぶんしゃ、Obunsha Co., Ltd.)は、1931年(昭和6年)に創業した教育専門の出版社。 概要[編集] 欧文社の名前で創業した当時から、『受験旬報』や、英語の問題集などの教育を主とした出版を手掛ける。 かつては学習研究社と双璧をなしていたが、少子化と受験環境の大きな変化に抗し得ず経営が悪化し、全国拠点の整理や、子会社株の売却等のリストラを実施した。その結果、数年間続いた赤字から脱却し経営再建に成功。新規事業の開拓と利益構造のさらなる改善をめざし、旺文社株の一部の売却を行い、売却先である三菱商事の協力を受けた。現在、三菱商事との提携は解消されている。 入試関連の雑誌や書籍の出版で有名だが、出版の他に生徒向けのテスト事業や各種資格検定事業も手がけている。かつては、『中一時代』〜『高二時代』といった、中高生向けの学年別雑誌も発行していたが、1991年に廃刊。現在、
リリース、障害情報などのサービスのお知らせ
最新の人気エントリーの配信
処理を実行中です
j次のブックマーク
k前のブックマーク
lあとで読む
eコメント一覧を開く
oページを開く