エルクマン-シャトリアンは、アルザス・ロレーヌ地方出身である、エミール・エルクマンとアレクサンドル・シャトリアンの二人からなる合作作家のペンネームです。19世紀後半に、主に地方色豊かな大衆小説で人気を得ました。 本邦では、彼らとしては余技だった、短編怪奇小説の書き手として認識されているようです。とくに平井呈一の訳になる『見えない眼』(『恐怖の愉しみ』創元推理文庫収録)は、読者に強い印象を残しています。ただ、邦訳短編の数は数編にとどまり、彼らの怪奇短編を俯瞰するには難しい状況が続いていました。 今回、同人出版という形ではありますが、エルクマン-シャトリアン『怪奇幻想短編集』(小林晋訳 ROM叢書)が刊行されたことは、じつに意義のあることと言わねばなりません。 以下、主だった作品を紹介していきたいと思います。 『謎のスケッチ』 経済的に困窮していた画家の「私」は、ある夜、衝動に突き動かされてス