ボロボロの、ほとんど布一枚をまとっただけのような格好をした男が、なにかをボソボソとなにかつぶやいている。彼は詩人。日が西に傾く頃に、こうして路上に立ち自分の詩を朗読している。石畳の上にマグカップが置いてある。足を止めるものはいない。 夜の帳が下り、空気が冷たくなっても、彼は朗読を続けていたが、ここ数日ろくに食べ物を口にしていないこと、何時間も立ち続けていたことによる疲労から、ひざから崩れ落ち、そのまま腰を落としてしまった。 このままここにいつづけてもしかたがない。帰るべきだということは頭ではわかっているが、体が動かない。 そこへ、耳をつんざくくらいににぎやかな集団が、千鳥足で近づいてきた。いかにも上等な、派手な衣服に身を包み、その華やかさは、詩人のみすぼらしさとは対照的であった。 その集団の中心にいた者は、その国では知らぬものはいない、美声で名高い歌手であり、その街の中心にある芸術ホールで
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