レストラン業界のスターといえば、自身の名を冠した店を世界中に持っているような有名シェフたちだ。ここ数十年、業界の体制を形作ってきたのはまさに彼らの存在だった。しかしパンデミックで外食産業が甚大な被害を被った今、こうした「シェフ中心」のあり方を変えようとする動きが出始めている。 想像してほしい。早朝の一流レストランで、シェフが粉挽きで挽いた小麦粉をまな板に薄く敷く。スポットライトを浴びたシェフは、チャイブ(セイヨウアサツキ)の花をピンセットで抜き、つやめく鶏肉の下で燃える薪の火に風を送る。 カメラの焦点はシェフに絞られている。他の人間は皆、取るに足らない不鮮明な背景でしかない。 主人公となるシェフの説明は不要だろう。それはおそらく男性で、天才に違いない。気性が荒く、こだわりが強くて頑固だ。魅力的でカメラ映りもいい。彼は単にレストランのスタッフを管理するだけの人間ではない。彼こそ、「レストラン