御所貝は貝と名前がついているが、軟体動物ではなく、腕足類の仲間である。 腕足類は翼型と形容される非対称の殻をもっており、 この殻で水流をコントロールすることでザコナメクジウオの死骸などの 栄養分を口元に招き寄せる。基本的に動かない生き物だ。 水流の強さや餌にあわせて彼らの形状は最適化されており、 一種の不労収入で生計を立てていた。 まさに自然の風洞実験による産物である。 御所貝と呼ばれる貝たちはその最終進化系であり、 単体ではなく群生の相互作用によって水流を高度にコントロールしていた。 互いが互いの口元に水流を呼び込むことでWIN-WINの関係を築く、 長い箸でごちそうを食べる天国みたいな関係。そうして海底の「御所」を広げる ――と言えば聞こえはいいが、現実には複雑な自然を相手にしているゆえに、 位置によって得られる利益には格差があり、面倒くさい序列が存在していた。 新入りの御所貝は古参の