デジタルに欠ける身体の痕跡 MITメディア・ラボに赴任した'95年から、私はグラフィカル・ユーザー・インターフェース(GUI)の次に来る、新しいヒューマン・コンピューター・インタラクション(HCI)の形を追究する研究を始めた。そして、デジタル情報に物理的実体を与えることにより、情報を直接両手で触れて操作できるという「Tangible Bits(タンジブル・ビット)」のコンセプトを生み出した。その背景には、現在のデジタルメディアに欠如している身体性に関する根本的な問題意識が横たわっていた。 使い込まれた物理的なメディアにはあって、デジタルメディアには欠けているもの──それは、身体の痕跡だ。このことを強く感じさせてくれることになった、10年前のエピソードを今回は紹介したい。 肉筆原稿に残る創作の痕跡 三十数年住み慣れた日本を離れ、MITに赴任した'95年の春、私は長年の夢だった宮沢賢治の故郷、