編集者である知人Mがこんな話を聞かせてくれたことがある。Mがとある寿司屋に入り、たまたま隣に座ったアメリカ人と話してみると、なんとそのアメリカ人は学生時代にポストモダン文学を専攻、しかもトマス・ピンチョンを研究していた人物だった。Mは自分がリチャード・パワーズのファンであること、パワーズ作品の魅力を熱く語ったのだが、そのアメリカ人は「ごめん、パワーズって誰?」と答え、最近の好きな作家としてジョナサン・フランゼン、そしてデイヴィッド・フォスター・ウォレスの名を挙げたという。 邦訳が少なく日本の読者にとって未知の存在、しかし本国では現代を代表する大物作家、デイヴィッド・フォスター・ウォレス(David Foster Wallace, 以下DFWと略す)。そのDFWの代表作であり、アメリカにセンセーションを巻き起こし未だに読み継がれる小説こそ、1996年に発表された1079頁のメガノベル、Inf