病院に独特のにおいがあるように、屠殺場にも、独特の生暖かい血のにおいが漂っている。空気には常に鉄分が含まれており、漂泊してもにおいは消えない。 出勤初日に辞めてしまったり、震えあがって逃げ帰る新人が絶えない、という噂を耳にしたことがあるかもしれない。しかし、大勢は仕事の内容をよく理解している。生活のために命を奪う過酷な仕事だが、屠殺場の同僚たちは誠実な人間ばかりだ。私は、イングランド北西部の湖水地方で育ったから、生まれてからずっと狩りをしてきたし、自分の農場でも動物を屠殺していた。仕事は朝4時半から昼の2時まで。早く始まり早く終わるので、私には合っている。 屠殺場は、クリーンゾーンとダーティーゾーンという、ふたつの区域に分けられる。動物はまずダーティーゾーンに運ばれ、食用に加工される。ここでは流れ作業により、内臓、毛、皮が取り除かれる。 最初は電気ショックだ。昔は、家畜銃で牛を屠殺していた