仕事が終わり、最寄り駅を降りて帰宅中の出来事だった。事務所内で起きたトラブルに翻弄され、極度の疲労を抱えつつ自宅までの遠い道を歩いた。いつもならばバスをつかまえることができるが、その時間はとうに過ぎていた。 自宅は住宅街の外れにあり、家までの道のりには護岸工事を施された川に架かった橋を渡る必要があった。 橋上の歩道には、等身大の裸婦像とベンチが設置されている。休日にジョギングがてら休憩に立ち寄るにはちょうどよかった。 仕事で精神的にやられた帰り道など、深夜ではあったが、やはりこの場所で小休止することがあった。真っ暗な川面に目をやると、胸の中のどす黒い感情がゆるゆると流されていく。かわりに気持ちよい風が頬をかすめ、しがらみや思いこみがほどけていく。 その日も橋に差し掛かろうという時だった。裸婦像の傍に人影がかすかに動くのを認めた。 手の甲を腰にあてて、半歩前進するポーズで遠くを見つめる裸婦像