黒須(くろす)は激怒した。 必ず、かの邪知暴虐(じゃちぼうぎゃく)のぼったくりバーを除かねばならぬと決意した。 黒須には常識がわからぬ。黒須は、奈良在住の無職である。大仏を拝み、鹿と遊んで暮して来た。けれども金に関しては、人一倍にケチであった。 今日夕刻、黒須は大和八木を出発し、近鉄電車で野を越え山を越え、悪友の瀬川(せがわ)と共に十里離れたこの大阪の繁華街、宗右衛門町(そうえもんちょう)にやって来た。 黒須は妻も、彼女も無い。職も無い。齢七十四の、腰の曲がった母親と二人暮しである。この母は近々、後期高齢者に分類されることになっていた。喜寿(きじゅ)も間近かなのである。黒須は、それゆえ、本日支給されたばかりの母の老齢年金を勝手に財布から抜き取り、はるばるこの夜の街に遊びに来たのだった。 黒須と瀬川は先ず、適当な居酒屋で一杯引っかけ、それから宗右衛門町の大路をぶらぶら歩いた。そこで出会ったポ