科学哲学の分野には、「共約不可能性」という概念がある。もともとは、“いかなる整数比によっても表現することのできない量的関係”を表すための数学用語であったが、人文科学ではしばしば、この「共約不可能性(通約不可能性とも)」という用語が、別のパラダイムを背景に持つ他者との分かりあえなさや、他者理解、共感の限界を示す言葉として使われる。 そして私は、“共約不可能”という事態について考えるとき、ふと、星野源(敬称略)のソロデビューアルバムの一曲目、「ばらばら」(2010)のことを思い出す。曲の歌い出しはこうである。 “世界は ひとつじゃない ああ そのまま ばらばらのまま 世界は ひとつになれない そのまま どこかにいこう”星野源「ばらばら」 歌詞だけを見ればどこか悲観的で、世界に対する大きな諦めも感じられるようなこの曲は、それに反して、ゆったりとしたテンポと穏やかなメロディで牧歌的に歌いあげられる
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