1月刊行のちくま学芸文庫『悪について』(エーリッヒ・フロム著、渡会圭子訳)より、文庫版解説を公開いたします。本書『悪について』は、『自由からの逃走』『愛するということ』に連なるフロムの代表作の一つであり、日本でも長く読みつがれてきました。その今日的意義と魅力について、社会学者の出口剛司氏が論じます。 このたび、鈴木重吉さんの訳で長く親しまれたエーリッヒ・フロム『悪について』(原題The Heart of Man)が翻訳家の渡会圭子さんの手によって新たに訳し下ろされ、ちくま学芸文庫の一冊に加えられることになった。 著者であるエーリッヒ・フロム(1900-80)はドイツ生まれのユダヤ人、新フロイト派の精神分析学者、社会心理学者であり、ナチス台頭の心理的メカニズムを解明した主著『自由からの逃走』(東京創元社)は今や社会学、社会心理学の古典である。また彼の手による『愛するということ』(紀伊國屋書店