経度への挑戦 [著]デーヴァ・ソベル[掲載]週刊朝日2010年7月30日号[評者]温水ゆかり■大英帝国を救った 街場の職人ハリソン 経度とは何か? 時間である。太陽の南中時間が1時間違えば360度÷24(時間)で15度違う。海での仕事が生死を賭けたギャンブルだった大航海時代、正確な経度測定法の発見に賞金がかけられた。その額、今の数百万ドル。航海に耐える機械時計作りに40年かけた街場の天才ジョン・ハリソン(1693〜1776年)を巡る物語だ。 ハリソンの前半生はよくわかっていない。大工をしていたが、知識欲があってニュートンの『プリンキピア』と数学者の講義録を独学で精読。木の性質に通じていたことや、物理や運動法則を理解していたことなどから時計作りに乗り出したと思われる。当時、経度の問題は月距法を主張していた天文学者の命題。グリニッジ天文台長のイジメも陰険で、男とアカデミズムが結合すると嫉妬も2