穂村弘『本当はちがうんだ日記』所収のエッセイ「この世の大穴」にこんな話が載っていた。 三十代になってから、グリーンアスパラや韮や白菜が好きになり、四十代になってから葱が美味しく感じられるようになった。「名物」なんて概念は持っていなかったのに、旅行に行く前に「あそこの美味しいものは」と考えるようになった。 昔は第一印象で好き嫌いを決めていたのに、最近では付き合いの中で長所を見出すことも増えてきた。 他人を認められるようになって心から嬉しく思うものの、この道はどこへゆくのかと不安になる。 なんとなく、入賞しなかったパチンコの玉が、最後に同じ場所に吸い込まれるように、ひとつの大きな穴に向かってゆく所を想像する。 何一つ知らず、どんな考えも持たず、泣きながら産まれてきた自分の全てが、最後は世界の多様な豊かさという、「この世」の大穴に吸い込まれゆく。これは錯覚か、妄想か。 学校を追い出されたり、神秘