1年半前の夏――3歳の桜子ちゃんと1歳9か月の楓くんが、大量のゴミに埋もれた大阪市内のマンションの部屋で発見された。大阪二児遺棄事件。メディアは僅かな食物を与えただけで我が子を50日余り放置した下村早苗被告を「鬼母」と、その咎を育児放棄=ネグレクト殺人と騒ぎたてた。だが、そこで報じられたのは被告の風俗勤務や男性遍歴ばかりだった。 なぜ幼い2人は命を落とさなければならなかったのか。それは被告1人の罪なのか。3月5日に始まった初公判と並行しながら、ノンフィクションライター・杉山春氏が「事件の深淵」を父親や関係者への丹念な取材から明らかにしていく。 * * * DVDの画面で少し若い福澤朗がスタジオから中継先に叫んでいる。 「素晴らしいお父さんをもつ早苗ちゃん、あなた幸せだぜ、な。これからも家族仲良く。ちゃんと家に帰るんだぜ」 肩に掛かる茶髪。くっきりとアイラインを入れた目。ふっくらした頬。中学