世界を震撼させた事件 『キム・フィルビー かくも親密な裏切り』は、緊迫した化かし合いから幕が開く。 1963年1月、レバノン・ベイルートのアパートの一室で、男たちが向き合っている。キム・フィルビーとニコラス・エリオット。二人は親友であり、ともにイギリスの情報機関MI6のスパイだ。 エリオットはずっと信じ続けてきた友人の裏切りを明らかにしようと頭を働かせ、フィルビーは優雅にお茶を飲みながら、それを受け流す。紳士的な振る舞いの水面下でせめぎ合う嘘の応酬はもちろん、隣室で盗聴されている。 フィルビーは、1930年代にケンブリッジ大学でソ連の情報機関にスカウトされた「ケンブリッジ・ファイブ」の一人だ。イギリスの上流階級出身のエリートで、いわゆる「人たらし」。 酒を飲むのも人の話を聞くのもうまく、細やかな気配りで老若男女に愛される、そんな理想的な人物だったという。 大学卒業後、英紙「タイムズ」の戦時
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