「水辺の鹿(しか)」という一人(匹)芝居めいた話がある。これも岩波文庫版の「イソップ寓話(ぐうわ)集」から要約する。 泉で水を飲んだ鹿が水に映る自分の姿を見て、大きな角が見事に枝わかれしているのを得意になった。しかし脚が細くて弱々しいのが悲しい。そこへライオンが現れたので、一目散に逃げて引き離した。 しかし樹木の生い茂る場所に来ると角が枝にからまり走れなくなり、ライオンに捕まってしまった。鹿が殺されるまぎわに独りごとして言うには「ああ、情けない。裏切られると思っていたものに助けられ、一番頼りにしていたものに滅ぼされた」。 イソップは「このように危難に際しては、疑われていた友が救いとなり、信認篤(あつ)い友が裏切り者となることがよくあるのだ」と結ぶ。 何が自分を守ってくれるのか、見極めることは案外難しい。日本の安全保障を考えてもそうだ。 日本人の中には、戦後の日本がどこからも侵略を受けず、安