本稿は、ドイツの政治思想家フリードリッヒ・ゲンツ(1764-1832)が雑誌『歴史日報(Historisches Journal)』の1800年12月号に掲載した論文「永遠平和について(Über den ewigen Frieden)」の翻訳である。ゲンツは、この論文において、まずこれまで永遠平和を実現するために考えられてきた普遍国家(Universalstaat)と同時代の哲学者フィヒテによって提唱された閉鎖商業国家(der geschloßne Handelsstaat)、そして二種類の国家間の同盟に基づく連邦制の構想を検討し、いずれに対しても最終的には否定的な評価を下す。これに対して逆にゲンツがこの論文で欧州の国家間に一定の平和状態をもたらす構想として評価したのが、当時否定的な評価を受けつつあった勢力均衡策であった。そしてゲンツは最後に人間性の進歩に対する楽観的な視点を戒め、フランス