「はやぶさ」と「ゼロ戦」─「性能」と「信頼性」のトレードオフの系譜 「かの人を我に語れ ムーサよ トロイアの神聖な城を落せし後 流浪に明け暮れた かの男を」(ホメロス) 昨年の宇宙探査機「はやぶさ」の帰還は、まさに劇(ドラマ)的な感動を多くの人に与えた。特にカプセルを投下して使命を全うし、満天の星空を背景に光り輝きながら燃え尽きていく最後の姿に思わず涙ぐんだ人も多いと聞く。筆者もその一人であるが、その後、報道や書籍、講演で語られた幾多の危機を乗り越えた関係者の知恵や創意工夫の苦労話を知るにつれ感銘を新にした。 そうした艱難辛苦の長き航海からの帰還というホメロスの「オデッセイア」のような「はやぶさ」の物語の中で、もっとも印象的なエピソードは、すべてのエンジンが故障し絶望的な状況に陥ったとき、こんなこともあろうかと、ある技術者が機体重量の制約から当初の設計ではなかった、別々のエンジンの個々の構