学術的な選書シリーズでパンがテーマ。となればパンの歴史や社会との関わりを論じたような本だと思うかもしれないが、実はまったく違う。めちゃくちゃおいしそうなパンの写真がたくさん載ったカラー口絵を眺めてから「まえがき」を読み始めると、いきなり目に入ってくるのは「シニフィアン・シニフィエ」という言葉。たしか私が社会人になった年に創刊された、この講談社選書メチエシリーズの第一回配本は現代思想の本だったよなぁ、などと思い出してしまうが、ここで書かれているのはソシュールのいうシニフィアン・シニフィエ(=「意味するもの」と「意味されるもの」)ではなく、パン好きであれば知らない人はいないほどの有名店、世田谷公園にほど近いパン屋さん「シニフィアン・シニフィエ」のこと。慌てて著者の名前を見直せば、なんとそのオーナーシェフ志賀勝栄氏自身が書いた本なのだ。 パンを買うのが好きな人はもちろん、パンを自分で作る人たちに