「及川君、先生はこれを計算機って呼ぶんだけど、これは計算機じゃないんだ」 2年上の先輩がそうやって僕に指さしたのはMacintosh Plusだった。2年前に発売されたこのコンピューターは研究室の中で唯一のMacintoshで、NEC PC98シリーズに囲まれながらもそのデザインから一際目立っていた。 そのころの僕にとってコンピューターは計算機そのものだった。大学の9階にあるコンピューター室の専用端末からIBMの大型コンピューターを使い、有限要素法を用いた数値計算を行わせていた。資源探査のために地下構造をモデリングするというのが研究テーマだった。パンチカードはさすがに使わなくなっていたが、プログラムを走らせても結果が出るのは翌日。そのうち自分の大学のIBMのコンピューターでは処理能力が足りなくなったので、東大に設置されていた日立の大型コンピューターに2,400bpsで接続し、そこにジョブを