どんなに素晴らしい録音でも、 生の演奏には及ばない。 たとえそれが下手くそな ものであったとしても、 「今、ここ」にまさに それがあるということから 受ける感銘に及ぶものはない。 すすき野で食事をし、 バーに行って、ホテルに タクシーで帰る時、 高層建築の谷間に時計台が見えた。 最初は切り開かれた荒野に 建造されたのである。 周囲がどんどん変わって、 いつの間にかビル街となった。 それでも、時計台は変わらない 姿でそのままある。 時計台のような人に会いたいと 無性に思った。 河合塾の建物の周囲を歩く。 札幌はすっかり現代の街の風情を 見せるが、 時折古い時代の建物があって、 はっと眼を開かれる。 時計台にしろ、名もない民家にしろ、 今それがまさに目の前にあるという ことが、存在の奇跡として 感銘を与えるのだ。 午前、午後の二回、受験生や 父兄に向かってお話する。 お弁当を食べて、それから