二、醤油工場の断髪室にて 工場長の鈴木が、外の廊下の待合イスに聞こえるように「次の人」と声をかけた。 田舎医者の診察室ような断髪室に入ってきたのは、肉付きのよい16くらいの少女とそれを一回り大きくして老けさせたような無愛想な母親だ。母娘を向かいのイスに座らせて、鈴木は食生活や染髪の経験などについて質問しながらカルテをつける。 事務的な質問を繰り返しながら、鈴木は娘に視線を走らせた。ずいぶんと物怖じしない様子だ。ミニスカートにませた網タイツなんて穿いているが、この娘ははたしてほんとうに処女だろうか。とたんに娘の姿が挑発的なものに思えて、せまい部屋に圧迫感を覚える。余計なことは考えないようにしてカルテに目を落とし、ぶっきらぼうに「問題ありませんね」と母娘に言った。 実は、毛髪の持ち主が処女であるかどうかは醤油の出来にはあまり関係がない。 鈴木が二代目の工場長に就任して間もない頃、処女の少女、非